子供の頃から超能力が好きだった。

 スプーンを曲げたり、透視をしたりというようなトリックの類いではなくて、パイロキネシスやテレキネシスというような映画や漫画でしか見た事のない所謂エスパーの類いである。

 好きな作品の1つに『アンサー・トーカー』という力が登場する。自身が疑問に思った事の最適解が今までの知識や経験にない範囲のモノであっても、すぐに出せるというモノだ。

 当時、「こんな力があったら受験も楽だし、女の子にもモテ放題なのに……」と中二病を遺憾なく発揮していた僕であったが、バーテンダーになった今でも割と本気で欲しいと思っている。

 しかし、この力を持っていたキャラクターは10代で最新の破壊兵器のデザインをしているのだけれど、薄手のシャツ1枚で北極に放り出された時に「どうしたら生き延びれるのか?」という問いには「答えはない」と出ているので、どうやらそれほど万能という訳ではないらしい(答えとして出るであろうサバイバル術を実行する体力や時間が残っていないため)。

 ただ、冷静になって考えてみよう。

 GoogleやAmazon、果てはLINEなどのビッグデータが結集すれば、よっぽど専門的な情報でもない限り簡単に手に入るし、どんな年齢や性別の人間が今なにを欲しているのかも割り出せるというし、SNSなども含めたら自分の初恋の相手が今どんな人と夜を過ごしているかなんてすぐに解ってしまう。

 つまり、膨大なデータをリンクさせる事で今持っていない知識や経験に辿り着く。これは最早『アンサー・トーカー』の片鱗といっても過言ではないじゃあないか。

「毎月1000人近くのお客様を真剣に接客していると、どういった人がどんなサービスや話をしたら喜んでくれるか大体は解ってくるもんだ。それを求められる前にやってみたら良いんだよ」

 と、尊敬する業界の先輩はいつかに語ってくれた。確かにそういった閃きの体験はもう何度もした事がある。知見を深め、限定された環境と事柄であれば、考える時間をカットして疑問が頭に出た瞬間に行動に移せる。

 人類が自由に遺伝子や細胞を操作して手から火を出したり、空を飛んだりする日は自分が生きている間にはこないかもしれない。だけれど昔憧れた『アンサー・トーカー』という超能力には、僕のような凡人であってもバーテンダーという仕事の中でだけであれば覚醒する事が出来るかもしれない。

「こちらがやって欲しいと思った事をなんでもしてくれて、まるで超能力者みたいですね!」

 いつか、きっと。

たまプラーザ店バーテンダー・武