バーの雰囲気をつくっているのは、ボトルや照明だけではありません。

最近は、髪色やネイル、ピアスなど、身なりに関するルールがずいぶん自由になりました。

飲食店でも、明るい髪色のスタッフや、ネイルを楽しみながら働く人を見かけることは珍しくありません。

個人的には、それ自体はとても良い変化だと思っています。

好きな髪色にしたり、アクセサリーを身につけたり。
自分らしい格好で働ける場所が増えることは、決して悪いことではありません。

では、なぜ私たちの店では、髪色や髪型、アクセサリーなどについて一定の決まりがあるのでしょうか。

それは、「自由ではいけないから」ではありません。

私たちが考えるバーの姿に、合わせているからです。

*バーテンダーも、お店をつくる一部*

バーには、それぞれにコンセプトがあります。

カジュアルなバーもあれば、音楽を楽しむバーもある。
にぎやかなお店もあれば、静かにグラスを傾けるお店もあります。

そして私たち時代屋が大切にしているのは、昔ながらのオーセンティックバーが持つ雰囲気です。

落ち着いた照明、バックバーに並ぶボトル、グラス、カウンター。

そこに立つバーテンダーもまた、その空間を構成するもののひとつだと考えています。

たとえば、クラシックなホテルのスタッフが、そのホテルに合った制服を着ているように。

バーテンダーの服装や髪型も、店の雰囲気と無関係ではありません。

だから、髪は自然な色に。
アクセサリーは基本的につけない。
髪型も清潔に整える。

一つひとつを取り出せば、少し堅い決まりに見えるかもしれません。

でも、その目的は「個性を消すこと」ではなく、店としてひとつの空気をつくることにあります。

「おしゃれ」と「身だしなみ」

この二つは、似ているようで少し違います。

おしゃれは、自分がどう見られたいか。

身だしなみは、相手にどう見えるか。

そんな違いがあるのではないでしょうか。

自分が好きな服を着る。
好きな髪型にする。
お気に入りのアクセサリーをつける。

それは「自分」を基準にしたものです。

一方で仕事中の身だしなみは、その格好を見たお客様がどう感じるか、そしてその店にふさわしく見えるか、という視点が加わります。

もちろん、黒髪だから清潔で、明るい髪だから不潔という話ではありません。

ピアスをしているから接客が悪くなるわけでもありません。

大切なのは、どちらが正しいかではなく、「その場所に合っているか」なのだと思います。

*カウンターに立った瞬間から*

私服では明るい髪色でもいいし、アクセサリーをたくさんつけてもいい。

でも、カウンターに立つときには、その店のバーテンダーになる。

少し舞台に似ているのかもしれません。

役者が衣装を身につけるように、私たちもシャツを着て、髪を整え、靴を磨いてカウンターに立つ。

そうして初めて、店の照明やボトル、グラスと一緒に「バー」という空間が完成する。

お客様はカクテル一杯だけを買いに来ているわけではありません。

扉を開けた瞬間の空気。
カウンター越しの会話。
グラスを置く所作。
お酒をつくる姿。

そういったものも含めて、バーで過ごす時間なのだと思っています。

時代が変わっても、残したいもの

時代とともに、働き方も価値観も変わります。

昔の決まりを、理由もなく守り続ける必要はないでしょう。

変えたほうがいいものは、変えていけばいい。

でも同時に、「なぜそうしてきたのか」を考えてみると、残しておきたいものもあります。

きちんと髪を整えること。
シャツや靴をきれいにしておくこと。
余計な装飾をせず、静かにカウンターに立つこと。

それは単なる規則ではなく、私たちが「こういうバーでありたい」と考えている姿でもあります。

おしゃれは、自分のために。

身だしなみは、自分と、目の前にいる人のために。

今夜もカウンターに立つ前に、鏡を見る。

自分がおしゃれかどうかではなく、

「今日も、この店のバーテンダーに見えるか」

そんなことを確認するために。

そうして今宵も皆様のご来店をお待ちしております。

オウンウェイ
飯塚