次の一杯が決まっていないお客様に、よく聞かれる質問です。
すると、次に決まっている言葉は大体…
「じゃあ、それ作ってよ!」
です(笑)
だからこそ、バーテンダーにとって「好きなカクテル」というのは、単なる好みではなく、“自信を持って提供できる一杯”であることが多いと思います。
お客様の期待を背負って、カウンター越しに差し出すその一杯は、言葉以上に自分を伝えられるような気がするので。そんな私が「好きなカクテルは?」と聞かれて答えるのは——XYZです。
XYZはラム、ホワイトキュラソー、レモンジュースの3つだけで構成された、シンプルなショートカクテル。
私はよく、バーテンダーが最初に覚える5つのショートカクテルと言ったりします。
(ホワイトレディ、バラライカ、XYZ、マルガリータ、サイドカー)
材料だけ見れば、どこにでもあるような組み合わせ。
でも、この3つが織りなすバランスは、驚くほど繊細で、奥深い。
私が初めて入ったBARで、最初に心を掴まれたのがこのXYZでした。
ラムの甘みと、ホワイトキュラソーの柑橘系の香り、そしてレモンの酸味が、シェイクによって一体となる。
シェイクが振れるようになってからは、ひたすらXYZばかり練習しました。
シェイクの強さ、氷の状態、グラスの温度、注ぐタイミング——すべてが味に影響する。
何度も失敗して、何度も悔しくて、それでも諦めずに振り続けたのは、あの一杯に込められた“感動”を再現したかったから。
まぁ、やればやるほど、シェイクというものがどういうものなのか理解度が増すほどその味にはならないと痛感するんですけどね(笑)
身長、腕の長さ、力加減、一人ひとり違うので、私は私のXYZになるだけ。
同じなのは自分のカクテルで一人でも多くの方から「おいしい」をいただきたいという気持ちだけ。
だから、私にとってXYZは「好きなカクテル=一番練習したカクテル」なんです。
今でも、ふと初心に戻りたくなるとXYZを振ります。
カウンターの向こうにいるお客様が、どんな気持ちでその一杯を待っているのか。
どんな夜を過ごしてきたのか。そんなことを想像しながら、シェイカーを振ると、あの頃の自分が少しだけ背中を押してくれる気がします。
XYZは、ラムの新しい顔を見せてくれるカクテルでもあります。
「ラムって甘いんじゃないの?」とよく言われますが、XYZはそのイメージを覆してくれる一杯。
甘さよりも爽快感、重さよりも軽やかさ。ラムの持つ包容力と、
レモンのシャープさが絶妙に絡み合って、飲む人の心を少しだけほどいてくれる。
XYZを「好きなカクテル」として答えるのは、王道すぎる気もするのですが——
それでも、やっぱりこの一杯が好きなんです。
「じゃあ、それ作ってよ!」
と、言われるのを、今宵もカウンターでお待ちしております。
オウンウェイ
飯塚