きらいではない

by Mr.Genkai Sano

家に帰りたくないという訳ではない。ちょっとだけ寄って行こうと思う程度である。

しかし、ちょっとが、ちょっとでなくなる自分がきらいではない。

いつも、最初にビールをたのんでしまう。そして次も。他にもいろいろあるのだがビールをたのんでしまう。そして飲む。腹がふくれるので、たくさんは飲みたくない。しかし、そんなビールがきらいではない。 

まわりのざわめきがうるさく感じる。たばこと音楽、男達の仕事の事であろう話。男と女の話。女達の大声で言えない話。そしてカウンターの中からバーテンダーの声。

しかし、少しうるさいのはきらいではない。

適量を少し超えた頃の視覚と思考力のあいまいさがここち良い。こんな時に101Proofのヴァージンが追いうちをかけてくる。思考力が逃げまどい視覚が悲鳴をあげる。心の良心がだんだん溶けてゆく。そんな戦場の様な状態も私はきらいではない。

スタンゲッツの曲が終わっている。いつの間にかマル・ウォルドロンのレフト・アローンが聞こえてきた。誰がかけたのかは知っている。そしてその魂胆も。