「サカバノススメ2」

タイトル「サカバノススメその2」

突然ですが、あなたの好きなカクテルもしくはどのバーでも必ず注文する一杯というのはなにかありますか?

一般ではスタンダードカクテル、マティーニ・ジントニック・ギムレット・マンハッタン等有名なカクテルで何処のバーで注文してもでてくる物ですね。今回はその数あるスタンダードカクテルのなかの「ニューヨーク」をテーマに話をしたいと思っています。

まだ僕がバーカウンターでお酒をつくらせていただいてから間もない頃、ある常連のお客様(仮にAさんとしときましょう)にショートカクテルを注文されました。そのカクテルは「ニューヨーク」ウイスキーベースのあまざっぱりとしたカクテルです。Aさんはとてもお酒にくわしく僕より何年もお酒をのまれている方で教わることがとても多いです。Aさんが「ニューヨーク」を飲み干したあと私に一つ課題をくれました。

「一ヶ月時間をあげるので一ヶ月後の今日、おいしいニューヨークをつくってほしい」

当時バーに立ちはじめて間もない頃の私にはカクテルも勉強不足でほかのお店にも飲みにいって勉強したりするのが少なかったのでこれはとてもよい機会になるのでその日から一ヶ月後に向けて特訓をはじめました。

「ニューヨーク」でベースとなるスピリッツはその土地の名が示すようにバーボンかライウイスキーをつかうのが一般的となっています。バーによってはカナディアンやスコッチ等でつくる所もあります。それにライムの絞り汁とザクロのシロップを加えますがライムを多く入れたりしますとすっぱすぎたりしますしかといってシロップが多すぎれば甘い少なければキツイ、バランスよく調合しなければなりません。ベースとなるウイスキーもなにをつかうかで味が極端にかわります。単純なレシピですが奥が深いカクテルです。

一ヶ月ほぼ毎日仕事が終わって2・3杯、多い時には5・6杯もつくったことがあります、最後のほうは味もわからなくなり二日酔いにもなることもありました。もちろん毎回ベースをかえ調合もかえAさんがおいしいといってもらえるような物を目指して練習しました。そのとき一緒に働いていた店長や先輩たちにもとても助けてもらいました、しかし毎回仕事終わりに飲まされるので「ニューヨーク」嫌いになってしまった先輩もいました。すみませんでした。

それから休日になると必ず都内のバーにいき「ニューヨーク」を注文していました。今日までいろんなバーにいき「ニューヨーク」を注文しましたがおもしろいものでどのバーもベースとなるウイスキーがちがっていたことです。味もどの店もちがい演出や作り方も工夫されている店もありよい勉強になりました。もちろん「ニューヨーク」だけでなくマティーニやサイドカー・ジントニック等もお店によって違います。

そしてある日あるバーで「ニューヨーク」を飲みなかで一番おどろかされたことは「桃の(様な)味」がしたということ、何件もまわって飲みましたがそのように感じたのはその店だけでした。どうやら調合の仕方しだいで桃のような感じにもなることも学びました。

そしてついに一ヶ月が経ちました。

僕は「一ヶ月勉強しましたよ」というとAさんはきょとんとして「なんのこと?」といわれました、どうやら忘れていたようです。すこし悲しかったです。でもAさんはおもいだしてくれて「ニューヨーク」をつくらせていただきました。いままで先輩達もたすけてくれたこともありベースもお客様の好みとおもうものを選びました。そして結果は・・・・・。

「ニューヨーク」を飲み干しAさんは帰り際こういいました、「あと一ヶ月あげるのでおいしいスティンガーを・・・。」そんなオチです。

そのお客様のおかげでひとつのカクテルを通じていろんなことを学ぶことができました。

ウイスキーやカクテルもそうなのですが「これが一番おいしい」とはあってないようなものですべてはその人の好みによるものかと思います。ニューヨークもドライめのバーボンが強くでているものも好きな人もいればバーボンぽくない甘口でソフトなものが好きという人もいる。ほかのお酒にしてもそうだとおもいます。

もしあなたもいろいろバーに行かれる機会があれば是非ひとつのカクテルを決めてまわってみるのもよいでしょう。そのなかでベストなお酒がみつかるといいですね。僕もお手伝いしますよ。