私の好きなカクテルと溝の口

田園都市線の最終電車にて溝の口駅に辿り着く。ここ5年位の間で急速に変化した賑やかな繁華街、変わって行っているなあと、常々実感する。一方それとは反対方向の人通りの少ない方に、昔ながら殆ど変わる事もなく私が幼少の頃から通っている商店街がある。下町情緒と言う表現が正しいかどうか分からないが、独特の雰囲気を持った商店街である。この商店街にBarの様なある種、ハイカラな場所で出来ると5年前には全く想像もしていなかった。Barに行くとしたら、都内に出向いていた私にとって、「こんな場所にBar??、しかもお酒が沢山(700種以上も)!!」と言うのが最初の印象であった。今となっては、この商店街にお酒好きが安心して集えるBarが出来て良かったと思う次第である。

Barでの最初の1杯目は暫く考える事もあるが、バーテンダーの顔を見て直ぐさま注文する事もあり、日によって様々であるが、大体はカクテル、それもショートドリンクを頂く事が多い。私の好きなカクテルは、昔から殆ど変わっておらず、シンプルなレシピのカクテルを好む傾向がある。ジン、ラム、ブランデー等、ベースとなるお酒の好き嫌いはあまり無いが、とりわけジンベースで、中でもマティーニが格別に好きである。1杯目でこのカクテルを飲むかどうかは別として、初めて行ったお店では必ずと言っていい程飲むカクテルである。このカクテルは私が言う迄もなく、様々な伝説があり、時代の変動と共に進化し、多くの歴史的著名人達からも愛飲された事でも有名である。若輩者ながら私もマティーニ党の1人であり、私の中ではこんなに面白いカクテルは他にないと思っている。基本的なレシピとしては、ドライジン、ドライベルモット、最近入れないで作る事もしばしばあるが、オレンジビターズ、そしてレモンピール、そして最後にオリーブを添えて(最初に入れてしまっている事もあるが)完成である。見栄えも実に美しいカクテルであり、飲む所々で独自のスタイルが存在する様子である。その上、バーテンダーの思い入れも強く現れるカクテルの1つであり、作るのも困難な部類に入るカクテルではないかと思う。作る人が変われば、又、飲む人が変わればそれだけの数のレシピがあると言われており、使うジンやベルモットの銘柄、そして分量、氷の使い方、ステアの方法、レモンピールの絞り方、更にカクテルグラスが変わると面白い位に変化に富む事に気付く。カクテルの奥深さを知るカクテルであるが、絶対というものも決して存在しないのかもしれないと言う予感さえさせるカクテルでもあり、謎が深まっていくばかりである。最近のカクテルの味の傾向として、ドライ化が進んでいるようであるが、このマティーニも例外ではなく、あえてドライマティーニと呼ばれて作られるものもある上、更にフルーツを加える様々なフルーツマティーニ(種類を言い出すとキリがなくなる)たるものまで存在している。1つのカクテルの名称でこれ程、様々な形容詞の付くカクテルは、他に存在するだろうか(と言いながら、マルガリータやダイキリも結構、種類があったかもしれませんが・・・)?つまり、マティーニと言うカクテルは、現在進行形で未だ進化し続けており、だからこそ、マティーニがカクテルの王様であり、その地位を他のカクテルに譲っていないのかもしれないと思うのである。しかしながら、新しい形だからと言って良いわけでも無く、私の中では、古き良き部分が根底にあるべきカクテルの様な気がしている。私は注文する時、あえて「マティーニ」と言う様にしている。レシピとして、ドライであっても、あくまでマティーニは「カクテルとしてのマティーニ」であって、「マティーニとしてのカクテル」ではないと、私は思う。マティーニ党の1人として、その部分にこれからも私は、こだわって行きたいと思う。

私の好きな溝の口商店街、その通りの外れに存在する「時代屋」溝の口店。ここ時代屋で一杯のカクテルを飲みながら、ふと感じたりするのは、カクテルのマティーニの変化及び、進化と、ここ溝の口の町並みの変動とも一致する様な気がするのである。溝の口の街は現在進行形で変化しており、新しい部分と古き良き部分が混在した街である。時代屋溝の口店もカクテルのマティーニの様に進化し続けながら、いつまでも古き良きバーのスタイルも守った良いお店であり続けて行って欲しいと、ファンの1人として切に願っている。

大した事のない薀蓄を長々と配してしまい申し訳ございませんでした。
N.C.